本年度は、昨年度の武階の利用および統治実態の限界という研究結果の進展に応じ、3度の国際シンポジウムと1回の講演会を開催し、また成果を公開して広く他の研究者からのフィードバックを得るべく、ISBNを取得して本科研研究計画独自の事務局を設置し、Working and Discussion Paper Seriesの刊行を開始した。まず、2005年8月9日には国際シンポジウム「南宋の裁判と社会」を開催、昨年以来の統治における裁判の利用という課題を検討すべく、台湾の新進研究者劉馨クン教授が「《明鏡高懸》:従南宋法制研究談庶民社会」と題する報告を行い、これに対応して申請者が「『清明集』に見る名公と法律利用の関係」と題する報告を行った後、埼玉大学教養学部非常勤講師・小川快之氏が総括的なコメントを行った。ここでは、南宋裁判事例において用いられる個々の民事的法令の重要性が明らかにされたので、これをテーマとして、北海道大学大学間協定校事業および科研特定領域研究(課題番号17083013)と共催で国際シンポジウム「中国の法制と法文化」を2005年11月13日に北海道大学文学研究科において開催し、「南宋の裁判事例における"二十年の法"について」と題する報告を行うとともに高明士・玄奘大学教授「唐朝律令立法原理」、小川快之・元埼玉大学講師「宋代明州における社会経済状況と法文化」の報告を得た。このさいの様々な議論を反映させ、『名公書判清明集』の民事的法条を整理し、2005年12月23日、唐宋変遷研究プロジェクト研究組織と共催で中央大学理工学部において「第4回唐宋変遷研究プロジェクト研究会」を開催し、「『清明集』戸婚門に見える民事的法条の再検討」と題する講演会を行った。そしてこれらの成果は、最終的に、国際シンポジウム「中国史料の世界」(2006年1月25日大阪大学文学部)において「行政としての裁判-宋代判語に見る民事的法律と土地典売」と題して発表したが、さらに同時に行われた元中国社会科学院教授・陳智超氏による「文献的収集解読与利用」と題する報告の成果を取り入れ、上記Working and Discussion Paper Series No.1『宋代判語に見る民事的立法と地価変動』(2006年2月20日発刊ISBN 4-990-2826-0-4)として発表した。なお、東南アジア方面における諸勢力と宋朝との関連に関しては、2005年5月28日「第50回国際東洋学者会議」において、「宋代の南海交易」と題するシンポジウムを組織し、海外2名・国内3名の学者とともに検討を加えた。
|