研究概要 |
魏晋南北朝時代の墓誌銘は、未整理の部分が多い。そのため、新旧資料を一つにしたDBを作成するとともに、図版・釈文のデジタル化に取り組んできた。魏晋南北朝時代の墓誌銘の著録には、趙万里『漢魏南北朝墓誌集釈』や趙超『漢魏南北朝墓誌彙編』等があるが、収録墓誌数は500前後までである。上記のDBの墓誌銘収録数は1,100件を超過するまでになり、他のどの著作よりも多くの情報を得ることができるようになった。 墓誌銘中に見られる婚姻に関する情報は、先祖(父母以上)の中の女性の記録、墓主の妻の記録、女性の子供の記録の三種がある。この記録は、墓主とは直接的には関連がないために、従来注目されることは少なかったが、系図を描いたり、中央の皇子と皇子、地方の領主と領主、あるいは皇子と領主など、種々の関係を見るには、繋がりを明らかにできる資料であり、『魏書』等の歴史書には見えない関係を探ることができる。 女性の記録を読みながら一族と一族の関連を探るには、まずは系図を描くことが必要と考え、今年度は墓主を中心として妻子の関係を描く事にした。はじめに、歴史書中から系図を作成し、そこに女性の氏名を補っていく方式を採用していった。 墓誌銘中で家族の記録が見られる資料は200件ほどあるが、文章内容としては関連性の高い後漢時代の墓碑にはこの種の記録を見ることはできず、西晋の時代以降に普及してくる習慣と考えている。また、南北朝時代になると、墓誌の形式そのものが、碑の形から誌の形に変化してくるが、そこに刻される墓誌銘の婚姻の記録を読み進めると、漢民族の記述方法が北の胡族にも伝わったのであろうという推察ができる。 また、墓誌の作成目的については、死者の血筋や家柄を明らかにし、墓の改葬やその他不測の事態に備えようという防御的なねらいがあったり、墓を作る子孫が被葬者との繋がりを明示しようという目的もあったと考えられる。
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