本年度は、以下の内容の研究を実施した。 (1)河北省の調査地域 博物館などを訪問し、拓本等で読むことのできない文字の解読や従来の研究ではデータのない採寸(特に厚みと文字の大きさ)や石質の調査を行った。北京・天津周辺の資料を中心に、石刻の実物・貴重拓本を調査、画像などの資料を入手した。 (2)石刻資料のDB化と系図作成 石刻資料を整備していくと、歴史文献にはできない詳細な個人年譜や女性を加えた全員の家系図を描く事が可能となる。このため、本年も収集できた資料を中心にデータをデジタル化し、その中から、すべての人間の情報を抽出し、系図を描いた。また、姓の異なる者の婚姻を調査し、閨閥作成の実体を探った。婚姻関係や子供の記録は、女性の移動により成り立つ。歴史書は基本的には男子のみの記録であり、女性の実態が知られることはあまりない。石刻資料では女性の動きが分かり、資料的価値は非常に高い。 (3)文字から見る閏閥間のつながり 墓誌などの石刻資料では、銘文の書者や撰文者の情報をあまり得ることができない。しかし、手書きである墓誌銘の書を追ってゆくと、「書き手」が同じである墓誌銘に多く出会うことができる。このことに注目し、誰が書写したのかを追跡した結果、書の名手と思われる者が一族の死亡者の墓誌銘を揮毫したことをはじめ、その他の一族の墓誌銘を揮毫している事例が確認できる。このことからも、一族間のつながりをうかがうことができた。
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