研究課題
本年度は前年度の研究成果を発展させ、宋代における「累世同居」的同族結合から、宗族的結合への展開過程、明代徽州における小規模同族の家産分割と同族共有資産の関係、清代徽州における小規模同族の山林経営の実態、および地域内紛争と宗族形成の関係などについての考察をすすめた。こうした作業によって、宋代から元明を経て清代にいたる、長期的な社会変動のなかで、地域開発を主導し、地域内資源をめぐる競争に対処し、勝地域外へのネットワークを広げる手段としての宗族形成が進められたことを示した。また従来の宗族研究では、もっぱら宗族全体が所有し、その収益も宗族全体に帰属する、狭義の「族産」が専ら論じられてきた。しかし本研究では、特に徽州地域では、山林などの資産が、同族のメンバーが共同経営し、収益は持ち分に応じて分配する「共業分股」という形式が重要であったことを示した。かつそれば、家産の均分制度のもとでの流動的な資産保有をもたらしたことを明らかにし、かつこうした資産保有形態の、近世日本におけるイエや「株」のシステムとの対照性を指摘した。また徽州文書を中心とする、近年の中国における文書・档案史料の整理・収集と、その研究に関する動向を包括的に整理し、日本・朝鮮・ヨーロッパにおける文書史料の収集と保存の状況とも比較しつつ考察し、シンポジウム報告として発表した。また安徽大学徽学研究センターの研究者との交流、および日本での講演会における通訳なども行っている。以上の研究活動のために、東洋文庫・京都大学人文科学研究所・早稲田大学図書館などにおいて、徽州関係の族譜、及び関連する研究関係などの調査・収集を行ない、徽州文書、徽州社会、宋元・明清期の社会経済史・法制史などに関する史料や研究文献を購入した。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (2件)
社会経済史学 72巻1号
ページ: 3-25
宋代社会の空間とコミュニケーション(平田茂樹, 遠藤隆俊, 岡元司編)(汲古書院)
ページ: 215-248