本研究は、『魏書』楽志の校訂・訳注作業をつうじて、北朝楽制関係史資料を集積し、『魏書』楽志本文のできるだけ正確な理解にもとづいて、北魏楽制・音楽文化の国制に占める独自の構造を明らかにすることを第一の目標とする。『魏書』楽志の校訂・訳注作成は、漢魏以来の中国伝統の音楽文化・楽制と胡族の音楽文化との相互関係、及びそこから生み出された楽制構造を解明し、つづく隋唐期の政治文化・政治秩序の特質を解明するための基礎作業となる。 研究の最終年度である本年は、四年間の研究成果に基づいて研究報告書を作成し、当初目標としたすべての課題を達成した。報告書は、第一部「天下大同の楽-隋の楽制改革とその帝国構造」、第二部「『魏書』楽志訳注」・「『魏書』楽志解説」、第三部「北朝史研究文献目録稿」からなる。第二部「『魏書』楽志訳注」は、本邦初の日本語訳注である。第一部の研究篇とあわせて、西晋永嘉の乱以後、隋・唐初期にいたるまでの楽制史の沿革を実証的基礎作業をふまえて叙述することができた。第三部は、第一部・第二部の研究を遂行するに際し、北朝史全体の研究動向を把握するために作成したものであり、本研究の周辺を理解するために作成したものである。
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