本研究は、オスマン朝が18世紀初頭のサファヴィー朝崩壊に際してイラン西部をおよそ5年にわたって征服した際に作成した膨大な納税台帳(以下、「検地帳」と呼ぶ)を分析することで、前近代イランにおける都市と農村、さらには遊牧民の社会経済史的な実態とそれらの相互関係を明らかにすることを目指している。 平成16年度は史料の収集を中心に調査を進めた。まず、基本史料となるオスマン検地帳については、平成16年8月にトルコ共和国総理府古文書局(イスタンブル)で行った調査で、該当時期のイランに関わる検地帳15冊をほぼすべて複写(ただしCD-ROM)することができた。なお、以前は複写に関して台帳の3分の1までという厳しい制限があったため、当初、本研究では当面アゼルバイジャン地方の台帳に限定して収集するつもりであった。しかし、最近、当該史料に関しては複写の制約が緩やかになり、また、当該時期のすべての検地帳を比較考量することが個々の検地帳の史料批判のために不可欠であることから、すべての台帳を収集することとした。現在は、データベース・ソフトをもちいて、これらの史料から得られる情報を台帳ごとに順次、入力している。現時点でアゼルバイジャン関係の台帳3冊分をほぼ入力することができた。 このほか、フランスの国立国会図書館においては、研究対象となる18世紀を中心とする時期にイランを訪れたヨーロッパ人旅行者の旅行記などの史料を閲覧した。こうした史料には、書き手の偏見などが含まれているとはいえ、都市や農村などに関する、現地語史料からは得られない情報が含まれているからである。 このほか、西アジアの社会経済史にかかわる諸研究や基本的な文献を収集した。
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