研究課題
基盤研究(C)
本研究は、前近代イランにおける都市と農村、さらには遊牧民の社会経済史的な実態とそれらの相互関係を明らかにするための新たな史料として、これまであまり利用されることのなかったオスマン史料に着目し、その分析を通じて前近代イランの社会経済史研究にあらたな知見と問題群を提起することを目指したものである。本研究が用いたオスマン史料のうち最も重要なものは、18世紀初頭のサファヴィー朝崩壊に乗じてオスマン朝がイラン西部をおよそ5年にわたって占領・統治した際に作成した行政文書群である。報告書にあるように、成果として特に以下の4点を挙げることができる。1.オスマン史料利用に先立ち、前近代イラン社会研究に関わる諸問題を整理して、とくに農村・遊牧民をも射程に入れた社会史研究の遅れを指摘した。2.オスマン朝が占領地域を対象として作成した検地帳の作成経緯や史料的価値を明らかにした。今後、この台帳を利用するにあたっての指針となることを期待したからである。3.サファヴィー朝後期の有力名望家に関する財産目録をオスマン史料のなかに発見し、その分析を通じて、エリートによる土地所有の実態、さらには都市と農村との関わりの一端を明らかにすることができた。4.納税台帳を用いてある特定地域における果樹栽培の分布状況を明らかにし、サファヴィー朝期においても都市の市場を対象とした果樹栽培が行われるなど、都市の消費者の存在が農業生産に対して一定のインセンティヴを与えていたことを実証した。
すべて 2007
すべて 雑誌論文 (2件)
Eurasian Studies 5巻1-2号
Eurasian Studies vol.5, no.1-2