本研究の主たる目的は、明末(万暦年間)以降の江南地方で開板された仏教経典の一大叢書である大蔵経、すなわち「嘉興蔵」について、これを歴史学研究資料としてとらえる立場から、その有効利用を模索することにあり、嘉興蔵の基礎的な資料の収集とその整理をおこないつつ、その作業を通じて得た情報から、嘉興蔵を取り巻く諸問題の解明をおこなうことにある。 嘉興蔵については近年、中国において俄かに関心が高まり、その影印本や学術論文・研究書が陸続として出版されている。とはいえ1万巻におよぶこともあってか、総合的な基礎研究はまだ充分ではない。よって、嘉興蔵の歴史学的基礎研究を展開するための準備として、嘉興蔵がいつ、どのように開板されたのか、いかなる人々がこれを指導したのか、またどのような人々の援助を得て完成されたのかといった基礎的情報、すなわち「施捨刊記」を正確に収集・データ化することが急務である。 本研究の2年目となる平成17年度では、昨年度に引き続いて嘉興蔵の巻末に添刻される「施捨刊記」のデータ入力をおこない、3月初までに5千件を超えるデータをほぼ入力し終えた。最終年度の平成18年度には最終確認作業をおこない、本研究の成果として「嘉興蔵刊記集」を作成する予定である。 データ作成と平行して嘉興蔵の個別研究をおこなうべく、とくには続編に相当する「続蔵」「又続蔵」問題の解明に努めてきた。17年度中にその成果を研究論文として発表する予定であったが、複数の所蔵本情報により、その構成内容が実は同一ではなく、予想以上に複雑な様相を呈していることが判明した。この結果17年度中の雑誌掲載に間に合わず次年度発表となるのは残念であるが、むしろこの期間を利用してさらなる国内外の情報収集・精査に努め、完全を期したい。
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