本研究の主たる目的は、明末(万暦年間)以降の江南地方で開板された仏教経典の一大叢書である大蔵経、すなわち「嘉興蔵」について、これを歴史学研究資料としてとらえる立場から、その有効利用を模索することにあり、嘉興蔵の基礎的な資料の収集とその整理をおこないつつ、その作業を通じて得た情報から、嘉興蔵を取り巻く諸問題の解明をおこなうことにある。 嘉興蔵については近年、中国に影印本の出版や関連する学術論文・研究書が陸続として公刊され、またわが国でもようやく複数の研究者による研究成果がものされてきた。とはいえ1万巻におよぶこともあってか、総合的な基礎研究成果は充分ではない。よって、嘉興蔵の歴史学的基礎研究を展開するための準備として、その基礎的情報源となる「施捨刊記」を正確に収集・データ化することが急務である。 本研究の最終年度に当たる18年度の目標は、これまでの2力年間で入力した「施捨刊記」のデータを再確認し、そのデータ集である『嘉興蔵刊記集成』を研究成果報告書としてまとめることにある。ただ、当初予定していた続編部に当たる「続蔵・又続蔵」の「施財刊記J収録については、これを断念した。というのも、今年度の目標のいま一つの課題は「続蔵・又続蔵」部分のデータ収集とその解明にあったのであるが、中国や日本における当該部分の構成状況を比較照合した結果、予想以上に相互の異動が確認されたからである。構成をほぼ等しくする「正蔵」部分とはことなり、「続蔵・又続蔵」は一定の構成が維持されていたのではなく、時代により「変化」していたことが判明したのである。この比較結果は中間報告としてその成果を学術誌に掲載したが、当初予定していた今般の「刊記集」には、以上の理由から掲載を見合わせたのである。 ともあれ、今回の研究により、嘉興蔵研究の基礎データは一応完成したので、これに基づき更なる嘉興蔵研究が進展することを期待するものである。
|