本研究の主たる目的は、明末(万暦年間)以降の江南地方で開板された仏教経典の一大叢書である大蔵経、すなわち「嘉興蔵」について、これを歴史学研究資料としてとらえる立場から、その有効利用を模索することにあり、嘉興蔵の基礎的な資料の収集とその整理をおこないつつ、その作業を通じて得た情報から、嘉興蔵を取り巻く諸問題の解明をおこなうことにある。 嘉興蔵については近年、中国において影印本の出版や関連する学術論文・研究書が陸続として公刊され、またわが国でもようやく複数の研究者による研究成果がものされてきた。 とはいえ1万巻におよぶこともあってか、総合的な基礎研究成果は充分ではない。よって、嘉興蔵の歴史学的基礎研究を展開するための準備として、その基礎的情報源となる「施捨刊記」を正確に収集・データ化することが急務である。 本研究は、平成16〜18年度の3カ年において、嘉興蔵の「施捨刊記」情報の収集・整理・データ入力をおこない、データ集である『嘉興蔵刊記集成』として編集し、かつその過程で判明した諸問題を論文化することとした。ただし、当初予定していた続編部に当たる「続蔵・又続蔵」の「施財刊記」収録については、所蔵事例によって大幅な増減が判明し、ために今回はその収録を断念した。 ともあれ今回の基礎研究により、嘉興蔵開板に関わる基礎データは一応の完成をみたのであるが、これに基づいた更なる嘉興蔵研究の進展は今後に期するものである。
|