研究概要 |
平成18年度は,平成16〜17年度に内モンゴル自治区・黒龍江省および吉林省で行った調査で得られたデータを,文献資料との照合によって,より精細に分析することに主眼をおいた。そのために利用したのは,主として次の二つの資料群である。第一は,「黒龍江将軍衙門档案」(東京外国語大学A・A研所蔵マイクロフィルム)である。これは,本研究開始時から継続的に使用してきたものであるが,清代における人口移動と民族集団の再編を追跡する上でのもっとも基本的な資料群であるので,引き続き一定の検討を加えた。第二は,「満洲国」期の文献である。黒龍江地区においては,清末から中華民国期にかけての土地開放・招民開墾にともなって,大規模な人口の流動があった。従って,清代の档案等から得られる情報と,現地調査で収集したデータとを接続するためには,当該時期の人口移動・社会変容の実態について,一定の知見を得ておくことがぜひとも必要である。幸いにも,早稲田大学図書館,富山大学経済学部資料室等には,本研究が対象とする地域に関するある程度まとまった調査報告類が残されているので,それらを収集・検討した。 以上の諸資料を分析し,現地調査のデータと照合した結果,特に平成17年に調査した嫩江〜大興安嶺南麓一帯において,各少数民族集団の現況と清代における統治形態との間に,一定の相関関係が見られるとの結論に達した。具体的にいうと,(1)旧駐防八旗地帯と旧ブトハ地帯では,前者において固有文化の残存の度合がより高く,各集団問の親近感もより強い傾向が見られる;(2)ともに西モンゴルから移住した,イフミンガンのモンゴル族と五家子村のクルグズ族の間に,顕著な紐帯が見られる;等である。これによって,前年度に未解決として保留した問題に光を投ずることができ,本研究は所期の成果の達成へ向けて大きく前進したといいうる。
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