研究課題
キリスト教の対中国ムスリム布教は、19世紀から20世紀初、イギリス、アメリカの福音主義者主導で行われた。宣教師のムスリムに対する直接布教は、当然のことながら二つの世界宗教の優劣を問う教義問答と両者の紛糾にまで発展した。自共同体の中からキリスト教への改宗者の輩出を防ぐために、中国ムスリム側が乗り出したのは、一種の近代的宗教改革であった。それは、次の特徴をもつ。1.西欧の近代的諸精神--先進、進取、自発、自立など--を中国ムスリムが自らの存在意義とすること。2.宣教師がもちこんだキリスト教的「宗教概念」の導入によって、それまで存在一性論的スーフィズムの世界観の中ではぐくまれたイスラームの倫理体系、世界観を、キリスト教的世界観に匹敵するものとして理解しなおしたこと。3.もともとは人間完成のための宗教意識を、国民国家形成のための国民意識形成と重複して解釈したこと。4.中東イスラーム世界のいわゆるモダニストの近代思想の影響が大きいこと。特に、キリスト教宣教師を論駁するための知識を獲得するために、大量の書籍がアラビア語から翻訳された。それは、もともと西欧諸国の植民地、保護国となっていた中東諸地域の知識人によって反植民地闘争の一環として論じられたものであった。それらはほとんど例外なく、厳格なコーラン解釈によって、近代化を果たそうという内容となっていた。キリスト教宣教師が一般に使った対中国ムスリム布教マニュアルは中東の対ムスリムマニュアルを使いまわしたものであった。宣教師の挑戦をかわし、自宗教の振興を図るためには、中国ムスリム知識人は中東のアラビア語による対キリスト教論駁書に依拠するしかなかった。結局、ペルシャ語系統の存在一性論文書は反近代的、反現実的とみなされ、中国ムスリム知識人に軽んじられるようになり、20世紀半ばには中国で400年以上の歴史をもった存在一性論的イスラーム解釈は中国のほとんどの地域で忘却されてしまうことになった。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (5件)
Intellectuals in the Modern Islamic World : Transformation, Transmission, Communication
ページ: 117-142、375
東アジア<共生>の条件(世織書房)
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鄭和与文明対話(寧夏人民出版社 中国)
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国際シンポジウム「グローバリゼーションの下での少数民族女性のエンパワーメント」報告書(2006年11月5-6日)於早稲田大学国際会議場
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第二次回族学国際学術研討会文彙編(中国、寧夏 2006年9月3日-9日)
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