共和政ローマにおける家門意識の特徴を明らかにすべく、本研究では、貨幣図像を分析した。具体的には、まずは前2世紀以来、第二次三頭政治期にいたる時期の貨幣について、家門を誇示すると思しき図像をリストアップする作業を行った。その結果、計97種を析出することができた。これらを図像内容に応じて分類すると、(1)神・伝説的人物の子孫、16種、(2)祖先の武勇・軍功、45種、(3)祖先の民事的行政的功績、15種、(4)祖先の宗教的功績、15種、(5)祖先の祭司職、16種、(6)その他、9種、となる、同一家系による同一内容の重複をひとまとめに計算すると、(1)9種、(2)31種、(3)11種、(4)10種、(5)12種、(6)7種、となる。全体的傾向としては、貨幣鋳造責任者の一族の国家的功績が、モチーフの中心をなしており、このことは共和政期の家門意識と国家意識との密接な結合を表している。他方で、神話的世界や祖先の祭司職が描かれるところに、上記にとどまらない家門意識の重層性が窺える。貨幣鋳造責任者の家系のランクごとに区分すると、祖先の国家貢献を強調する態度は、コンスル家系においてより顕著であり、新人家系では対して一族の神話的起源の強調度合いが高まる。時代的変化については、家門のモチーフが前130年代より急増することは、つとに先行の諸研究により指摘されていたところであるが、これを前139年のガビニウス法制定という一つの出来事に帰するより、前2世紀前半より徐々に進行しつつあった、貨幣図像の表現方法そのものに対する考え方の変化によるもの、とするのがより妥当であろう。
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