本年度は、日本にない史料を収集して、そこに見出される音関係の記述を分類しながらカードに記入してゆく作業を始めた。都市のさまざまな条例、規約やギルド、信心会、修道院関係史料、さらに会計史料などのところどころに記載されている「音」の記述を拾い集めたが、それとともにより広い背景を知るために、中世・ルネサンスの文化史・社会史関連の研究書を入手して、熟読した。 テレビもラジオもなければ、文字さえ一般民衆にとってはほとんど目にする機械がなかった時代においては、音だけが、唯一に近いメディアであり、音から歴史を探る意義は大きい。だが、それぞれの音のメッセージの象徴的な意義を、音の鳴る環境および周囲に張り巡らされた力関係とともに探るためには、実際にいかなる「場」で音が鳴っていたかを確認する必要がある。本年度は、中世・ルネサンス期の市民と貴族にとっての音の場として、北イタリアの都市の広場および教会、そして都市周辺の農村に作られたヴィラを訪れ、綿密に観察し、写真に収めた。
|