本年度は、前年度までに計画・遂行された研究成果の総合をはかるべく、音をめぐる社会関係、権力関係についての解明を試みた。 具体的には、盛期中世のコミューン運動における鐘の役割、十字軍などの際の銀のラッパの合図、王権による鐘の没収、中世末の下層民反乱(フィレンツェのチョンピの乱など)での糾合の音、音のリレー、さらには王侯の入市式をはじめとする儀礼における楽師の音楽などにとりわけ注意を払って、それらに表れた社会関係ならびに支配・被支配関係を明らかにした。さらに、音を鳴らす専門家、すなわち鐘撞き、角笛吹き、ラッパ手、楽師についても、その地位、社会的位置を検討してみた。その結果、鐘撞きについては特定の「家系」が存在すること、またラッパ手をはじめとする楽師には、遍歴し差別される楽師と、都市や王室に雇われ、いわば高級役人のような立場に登りつめる楽師がいることが判明した。 3年にわたる研究の結果、ヨーロッパ文化を、文字どおり目に見えないところで規定していた深層の世界の重要な側面が解明され、ヨーロッパと日本やアジア、イスラム世界などとの、新たな比較史的研究への門戸を開く鍵をひとつ見っけたと言える。
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