本研究下大に関連して研究代表者がこれまで行ってきた研究の成果も利用しつつ、本年度においては、15世紀のフィレンツェ市民バルトロメオ・チェデルニ(Bartolomeo Cederni)に関わる私信から抽出された情報をもとに、フィレンシェ国立公文書館に所蔵されているCinque conservatori del contado e dominio fiorentinoシリーズの古文書のうち、1440年代のものを網羅的に調査した。これらは、当該部局(領域行政を分掌したCinque conservatori del contado e distrettoすなわち領域管理五人委員会)が、フィレンツェ領域の行政官達に発送した行政書簡の内容の概略とそれに関わる決定事項を記した冊子体の記録である.この調査によって、フィレンツェの農村領域にある小都市バルベリーノ・ディ・バルデルサ(Barberino di Valdelsa)およびモンテルーポ(Montelupo)に派遣されたフィレンツェ人の行政官から私的な人間関係のチャンネル(具体的には私信)を通じて、支配都市フィレェンツェの行政中枢に連絡・請願されている事項(税負担をめぐって生じた問題)について、この部局が公的に対処していることが確認された。さらに、税負担をめぐる同様の問題・紛争が、領域の他の地域でもしばしば生じていたことが、同じ史料から確認され、15世紀中葉のフィレンツェの抱えていた財政的問題の一面が、領域行政という点でも明らかになってきた。さらに、関連文献・史料を収集・検討し、15世紀フィレンツェの共和政という政治体制が持つフィクショナルな側面とその領域支配に関わる問題点を検討し、小倉欣一編『近世ヨーロッパの東と西』(山川出版社、2004)収録の論文「想像のレスプブリカ」(124〜149頁)において指摘した。
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