本研究は、アメリカ社会におけるアジア系移民のアイデンティティの変容過程を、全米日系移民博物館と中国人移民歴史博物館の設立と展示を中心に分析し、米国における国民統合の実態を解明することを目的としている。また全米日系移民博物館と中国人移民歴史博物館の展示を比較しながら、多文化社会の構築の有り方を明らかにしたい。 移民の国家である米国は、国民の統合をもっとも重要な課題とする一方、さまざまな人種や民族集団の文化への尊重を基礎とした多文化・多民族共生・共存の政策、および活発な論争が展開されている。そこでこの研究は、この論争の議論をアジア系移民博物館の設立および展示などを通じて総合的に検討を加える。それによって、現代社会に存在するさまざまな人種・民族・宗教などの文化的な価値が、いかにして公正で平和的に共存できるかを解明することが可能であろう。 アメリカ社会に占めるアジア系アメリカ人は80年代の370万から90年代の700万余りへと増加しているが、全米総人口の3%しか占めていない。戦後長い間、アジア系アメリカ人は、その独自の歴史や文化をアピールするよりは、アメリカ社会への適応と同化を優先し、自己の主張を抑えるようとした。しかし、80年代からアジア系アメリカ人は教育・経済面の成功に加えて、アジア系アメリカ人としてのアイデンティティを維持するため、自分たちの歴史や文化をアメリカ社会に伝えるべきとして認識しはじめ、様々なキャンペーンを行ってきた。アメリカ社会では、中国系と日系移民が、過去、どのような体験があって、それらの歴史的体験、戦後、彼らのアイデンティティの形成・変容にとのような影響を与えて、ひいてはアメリカの内外政策にどのような影響を及んでいたのかを総合的に考察する。同時に、様々な人種・民族集団の共存を実現するため、多文化社会の政策と構築を検証するための新たなパラダイムを提示できる多面的・立体的な綜合研究を目指している。
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