本研究は、祖父母の代に3人以上ユダヤ教徒がいたためにユダヤ人とされた「ユダヤ人キリスト教徒」の動向に関する研究である。 1.本年度は、本研究がスタートする前から準備していた以下の3つの事例研究をさらに進展させて、学会報告をし、その一部を論集論文として出版した。 (1)1943年2月末、ベルリンで発生した「ローゼン通り抗議」の実像を分析し、それが神話化されているドイツの現状を確認した。ユダヤ人一斉検挙で連れ去られたユダヤ人配偶者の釈放を求めて、ドイツ人配偶者たちがベルリン・ローゼン通りに集まって抗議し、釈放を勝ち取ったという経緯は、行動を美化することで生まれた神話であり、実際には、混合婚のユダヤ人配偶者は当初から東部移送の対象ではなかった、という研究者グルーナーの説を、史料から確認した。この論争の経緯を、「ユダヤ人の『家族』を返せ」という題名の論文として発表した。 (2)「ユダヤ人キリスト教徒」の相互扶助団体「パウロ同盟」のシュトゥットガルト支部を率いたエルヴィン・ゴルトマンの行動に関して、特に彼が子どもたちに書き残した手書きの遺稿を分析し、上記時期区分の第2期における彼らの状況を解明する手がかりとした。2004年10月31日の広島史学研究会大会・西洋史部会において、「ドイツ第三帝国下の『ユダヤ人キリスト教徒』に関する事例研究」と題して、研究成果を報告した。 (3)混合婚夫婦から生まれた子供たちは、混血者として、部分的な迫害の対象となった。ベルリンにおけるヘルムート・クリューガーの事例に関して、彼の手による回顧録を実際の迫害措置と対比して検証しつつ、「第三帝国下のユダヤ人『混血者』の事例」と題した論文にまとめた。 2.さらに、ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センターなどを訪れ、上記課題に関する史料調査と収集を行った。
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