今年度のリサーチは、英本国の環境保護団体である帝国野生動物層保護協会を中心に築き上げられた、保護主義者の国際的ネットワークの実態を明らかにすること、さらに、アフリカを中心とする英領植民地の野生動物保護運動とこの人的ネットワークの有機的関連を明らかにすることに主眼がおかれた。 その結果、19世紀末から第一次世界大戦までは、もっぱらアフリカと本国とを結ぶものにすぎなかったネットワークは、1920年代以降、英領アジアへと広がりを見せ始め、さらに1930年代にはすでに英帝国の枠を超えた広がりをもつこととなった。すなわち、第二次世界大戦後明らかとなるグローバルな環境保護運動のひな形がすでに形成されていたことが明らかとなった。 このネットワークのグローバル化の過程は、同時に保護団体とネットワークの性格の変化、さらには保護運動そのものの性質の変化を伴っていた。それは、アフリカのいわゆるビッグ・ゲーム(狩猟対象の大型哺乳類)の保全を中心とした本国エリートによる運動から、大衆的基盤をともなった、植民地の野生動物層全体の保護を目的とするネットワーク、運動への変化である。 そして、このネットワークの拡大は30年代には、アフリカでの保護主義のモデルを英領アジアへと移植する試みを促すことになる。とりわけ、1930年代に際だった動きを見せたのは、英領マラヤの野生動物保護の運動である。このように、英領アフリカを中心とした自然環境保護主義の特徴を明らかにする研究は、よりグローバルなネットワークの中にそれを位置づける作業へと展開することになった。
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