研究概要 |
諸修道院の商業及び商人との関わりを検討して16世紀のロシア国内における商品流通とその担い手を明らかにすることと,西欧やアジア地域との関わりを検討することによって双方向の商品の流れとその担い手を明らかにすることを目的として研究を行ってきた。その結果,ロシアにおける外国貿易及び地域内・地域間商業の担い手に焦点を絞る形となった。前者については,一般的な形での商業の担い手,ゴスチ,特にスロジャーネやスコーンニキなどの富裕な大商人=遠隔地商人層を検討すること,後者については,地域内・地域間商業の担い手であるクペーツ,コロベーイニク,ラズノスチクの実態を検討することが課題となった。そのためには,具体的な交換の場であるラフカ(店舗),それらが連なるリャート(専門店街),さらにはそれらを包括した市場(いちば,ロシア語ではルィーナク,バザール,トルク)に注目しなければならないが,史料的には修道院関係文書,店舗台帳の分析を行った。修道院関係文書としては,ヨシフ・ヴォロコラムスキー修道院の経済関係文書を分析の対象とした。ラフカについては,ノヴゴロドとプスコフの店舗台帳が刊行されている。20年度については,修道院関係文書の分析と共に,プスコフに関する店舗台帳の分析をおこなうことを作業のひとつとして挙げていたが,入手することができなかったため,すでに入手していたノヴゴロド店舗台帳を分析の対象とした。 分析の結果,16世紀においては当該修道院関係者は購入者としては登場しているが,流通の担い手としては登場していることは極めて稀であること,手工業者も自己の製造品の売り手として,店舗所有者として登場している場合が相当あること,外国人商人や外来ロシア人商人の到来を示す商館が存在していたこと等を確認することができた。新しい知見とまで位置づけることはできないが,更なる分析の基礎とはなり得ると思われる。
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