平成16年度は、近世イギリス南西部の有力地域産業であったすず産業に、ロンドン市の諸勢力が勢力を拡大していった経緯の実証的な解明を進めた。分析を進めた一次史料は、(1)ロンドン・ピュータラーズ・カンパニ議事録(ロンドン・ギルドホール・ライブラリ所蔵)(2)財務府関連史料(BL Add.MSS)の一部(大英図書館所蔵)(3)レヴァント会社議事録・国家公文書(TNA : SP)(英国公文書館所蔵)等である。これら一次史料とともに、各大学所蔵の刊行史料と二次文献を利用しながら上記課題を遂行した(東京大学・立教大学・名古屋大学)。今年度の補助金の主要な支出内訳として、これらの大学における研究資料収集を目的とした旅費があげられる。また、これらの研究課題の遂行に必要な二次文献の一部は補助金で購入した。 平成16年度の研究成果の一部をまとめ、平成16年10月に「比較都市史研究会」(早稲田大学)で報告を行った。ここでは、ロンドンの有力リヴァリ・カンパニの一つであるロンドン・ピュータラーズ・カンパニとすず産業の関りを16世紀から17世紀の時期を中心にとりあげた。17世紀前半のすず先買請負制度導入期に、同カンパニがピュータ製造の原料となるすずの国内向け仲買やすずの二次製錬、すずの品質査定などをめぐり、勢力を拡大していったことを示唆した。当報告の概要は平成16年12月発行の『比較都市史研究』に掲載されている(11 研究発表欄参照)。なお、口頭報告した内容の一部をまとめ、次年度内に論文として投稿する予定である。 本年度にはもう一つのロンドン市諸勢力として、ロンドンすず商人に関する検討も進めてきた。その結果、ロンドンの多様な貿易会社所属の商人がすずの輸出業に参入してきたことが明らかとなった。これら商人たちの出自やキャリアを論じた英文論文を『九州工業大学研究報告(人文・社会科学)』に発表した(11 研究発表欄参照)。
|