研究概要 |
1 本年度は、すず産業というイギリス南西部地域固有の「地域産業」において、近世ロンドン市の有力リヴァリ・カンパニ(ギルド)であるピュータラーズ・カンパニが勢力を拡大する過程を一次史料を中心的に使用して実証的に検討し、その成果を審査制雑誌に発表した。 2 実証検討については以下の作業を行った。 (1)以下の一次史料(マイクロフィルム)の分析を進めた。 ・GL, MS7090/1-4(ロンドン・ギルドホール・ライブラリ所蔵のピュータラーズ・カンパニ補佐役会議事録)S ・TNA/PRO, SP12,14(英国国立公文書館所蔵の国家文:エリザベス1世、ジェームズ1世治世期) (2)上記の史料を補完する以下の刊行史料の調査、整理、分析を行った。(立教大学図書館本館、文学部図書室利用) 3 これらの検討の結果を審査制雑誌『比較都市史研究』に論文として成果を発表した。(以下はその概要) 17世紀前半にすず先買請負制度が実施されイギリスすず産業全体に大きな影響を及ぼした。この独占権を獲得したのは、ロンドン市の海外貿易商人とロンドン市の有力ギルドであるピュータラーズ・カンパニであった。先買請負が制度化されていく17世紀前半を中心に、特に近世イギリスの代表的なすず合金加工業である「ピュータ産業」に的をしぼり、その動向を実証的に検討した。ロンドン、コーンウォル半島、地域都市に広がる、生産、流通、加工というイギリスすず産業全体の結びつきを再構成することは本研究課題のもう一つの目標であり、本稿でその概要を試論として提示している。 当該時期のピュータラーズ・カンパニの経済活動は先買請負制度の実施により大きな制約を受けていた。にもかかわらず、地域のピュータ産業やその他の加工業者へのすず供給を同カンパニが独占し、すず合金化工業としてのピュータ産業はロンドン一極集中の形で発展していくことを結論として明らかにした。
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