本研究は、両大戦間期のヨーロッパで最大のユダヤ人口を擁したポーランドにおいて、ポーランド・ユダヤ人における政治的本流ともなっていたシオニズム運動が、どのように展開されていったのかという問題を、一次史料に拠りつつ再検討を行い、ポーランド・シオニズムの特徴を析出することを目的としている。研究期間中に蒐集した史料の分析、およびそれを補完するために実施した各文書館での史料調査によって得られた重要な成果は、主として次の3点にまとめることが出来る。(1)ポーランドのシオニズムにおいて大きな役割を果たしながらも、これまでの研究においては本格的な検討が試みられなかった指導者レオン・ライヒの思想と行動について、リヴィウ(ウクライナ)での史料調査や中央シオニスト文書館所蔵のライヒ文書の入手によって、本格的な考察を試みることが可能となり、シオニズム史あるいはポーランド・ユダヤ史における研究史上の空白を埋めることができた。(2)「議会シオニズム」と呼ばれるポーランド・シオニストの政治活動の特徴を、シオニズム系の主要日刊紙の系統的な検討を通じて、動態的・具体的に分析することができた。(3)1920年代を通じ、主に世界シオニスト会議を舞台として国際シオニズム運動に亀裂を生じさせていた非シオニストとの連携をめぐる問題が、ポーランド・シオニスト間の国内での活動をめぐる路線にも反映されていることが分析結果として得られ、国際シオニズム運動と各国のシオニズム運動との相関性・関係性を把握することの重要性を認識することができた。
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