今年度は高句麗古墳壁画の墓主像に対して、中国との比較研究を行なう過程で、近接する遼寧省遼陽と朝陽地域を中心とした魏晋代の壁画墓に対する資料調査を行なった。この地域の壁画墓は墓主像の構図や姿態表現などの基本的な構成要素の点で高句麗古墳壁画の直接の系譜関係を想定される地域であり、これに対して、主要な壁画墓の立地環境や墳形、出土遺物および壁画(模写を含む)そのものの詳細な観察から、これまでいわれている高句麗古墳壁画との類似点と相違点を再検討する基本的な視座を構築することに努めた。また、あわせて遼陽地域の歴史的環境を知悉すべく、周辺の関連遺跡の調査も行なった。 この結果として、とくに遼陽・朝陽壁画墓と高句麗古墳壁画の墓主像のなかで、行列図とそこにみられる騎馬関係の構図に着目して、高句麗古墳の石室の規模や構造を勘案して、高句麗古墳壁画に表される鎧馬騎乗人物雑像に対しても個別具体的に考察を行い、そのような人士と墓主との階層関係の存在とその具体例を提示しえた(「高句麗古墳壁画における鎧馬図考」として成稿)。同じく、墓主が持つ器物が墓主の属性や所属階層、来歴や出自と関連することを重視し、その具体例として、墓主の近侍者が宝持する器物の一つとして、角杯をとりあげ、これが高句麗社会に定着をみなかったことから、亡命漢人たる墓主が高句麗に移入した文化要素であることを証した(「」として入稿。ただし、刊行は平成19年3月末以降になる予定)。 本年度は以上のような調査とそれによる研究成果の刊行および成稿を行なった。
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