本年度は主に秦漢時代の墓葬と出土遺物について検討を行った。 秦漢時代の墓葬を、戦国時代の墓葬と比較すると、特に青銅礼器とその模倣陶器の減少が各地域に共通している。各地域の変化を見ると以下のようになる。 (1)四川省では竪穴土坑木棺墓(いわゆる「船棺墓」)から木槨墓へと変化し、巴蜀青銅器文化の遺物が次第に減少してゆく過程が見られる。 (2)長江中流域においてはいわゆる「楚墓」が解体してゆくが、その過程は均一ではない。戦国時代中期までの楚の中心地である荊州付近では日常陶器を中心とするいわゆる「秦墓」への急速な変化が見られるが、その他の地域では戦国時代後期に成立する「鼎、盒、壺・〓」といった組み合わせが残っており、やがて減少へと向かうが、その変化は漸進的である。これに加えて荊州市高台墓地の検討から、階層差によって墓葬の変化に違いがあることも明らかになっており、戦国時代から秦漢時代への変化はかなり複雑である。 以上のように戦国時代から秦漢時代への変化は一部地域を除けばかなり緩慢であり、墓葬としてのこされた葬送儀礼には戦国時代以来の地域性が、秦漢時代にも残されていたことがわかる。しかしその反面、地域を越えて副葬品での青銅礼器に関連する遺物の減少は確認でき、そこに大きな時代の変化を読み取ることもできる。その意味づけが次年度の課題である。
|