西ヨーロッパや北アメリカの後氷期における木材資源利用の実態を把握し、「森林文化」としての縄文文化の特質を明らかにしようというのが、本研究のテーマである。しかし、現地で資料収集・情報収集を行った結果、情報の質及び量において、現時点で縄文時代の木製品研究に比較できるものはほとんどなかった。そこで、調査過程で収集した多くの文献の中から、今後の当該研究の進展に有効と考えられる情報を取り出し、成果報告書に記載した。 成果報告書は以下の3章よりなる。 1.低湿地遺跡の研究 研究テーマのべースをなす低湿地(泥炭層)遺跡に関して、日本と対比可能な研究深化が見られるイングランド、アイルランド、デンマークの3地域を選び、その研究状況や研究視点、成果などを記載した論文を取り上げ、翻訳や要約を行った(1-42頁)。 2.木工技術の研究 目的とした時代の木工技術研究は、ヨーロッパにおいても北米においても皆無といってよい。そこで北西海岸インディアンの木工技術に関する民族誌的研究をとりあげ、これを翻訳した。縄文時代の木工技術を研究する上で、きわめて有意義な情報に富むものである(43-63頁)。 3.丸木舟の研究 後氷期の汎世界的な特徴である水産資源開発に関連して、ヨーロッパや北アメリカ・日本の丸木舟研究を扱った。ヨーロッパに関しては先史時代丸木舟の研究事例4つを、また北アメリカに関しては民族誌研究を翻訳または要約し、日本に関しては若狭湾岸の筆者の事例研究を記載した(64-91頁)。
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