本研究は、植民地都市においてジェンダーを中心とした社会関係がいかに形成され、それが植民地の都市空間形成に影響を及ぼしていたかを明らかにすることを目的としている。植民地都市の特徴は、その顕著な権力関係とそれを可視化するような権力者による建造空間の形成である。このような権力関係の建造環境や空間構造への反映は、支配者-被支配者の二項対立的関係においてこれまで分析されてきた傾向があるが、本研究では、日本の最初の植民地であった台湾の植民地都市台北において「女性」が権力関係と空間形成にどのように関与しているかを見るものである。台北においては、植民地政府がその統治初期においては権力を誇示するような都市空間を形成し、統治体制が確定していくに従い、その統治を最大限に効率化するような都市計画を実施し、植民地都市を形成した。こうした植民地都市の公的空間は、「男性」によって支配され形成されていったが、女性はその中でどのような役割を果たしたかが、中心的課題である。 平成17年度は、植民地都市におけるジェンダー関係、先行研究を分析し、さらに昨年度収集した一次・二次資料を整理・分類・解析を行った。先行研究の多くは女性が植民地都市空間において公的空間から疎外され、‘被支配的'立場に置かれていると論じている。本研究は、日本の植民地都市台北において被支配者層の女性が実際に植民地都市をいかに利用し、行動していたのかを、インタビューをはじめ雑誌記事、新聞、小説などから実証的に分析し、考察を行っている。その結果、台北において被植民者の女性たちは、ただ支配に屈していただけでなく、公的空間から疎外されているがゆえに、植民者たちが立ち入らない女性が「支配」する私的空間を利用して、そこを巧みに自らのアイデンティティを確立し、「自文化」を保持し続ける場所として構築していたことが明らかとなった。
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