本研究課題の初年度にあたる本年度は、中国における場鎮の実態について2つの方向から研究を進めた。まず近年刊行された県志を通して、ひろく中国全土の状況について概観を行った。多くの県志が冒頭の概況部分で場鎮(集鎮・市鎮・墟市)について記載していることは、その県域空間における重要性を物語るものでもある。商業部分などの個別記載からはより場鎮の状況が看取され、その地域性について検討を進めている。 もう一つの接近法であるフィールド調査は本年度の研究の主体をなす。フィールド調査は季節要因を考慮して2度にわけて実施された。第1回の12月16日から25日までの10日間は、現地調整を快諾いただいた方一平研究員(中国科学院成都分院)とフィールド調査全般の打ち合わせの後、成都図書館などで地方志関係資料を閲覧し、車両を借り上げて自貢まで場鎮観察を主とした広域のフィールド調査を行った。第2回の3月13日から26日までの14日間は、成都市南部の新津県において10カ所の場鎮を訪問し、景観観察を行うとともに、場鎮史と個人史について高齢居住者への詳細な聞き取りを行った。また成都図書館では所蔵する1980年代に刊行された郷鎮志を綿密に読み込み、聞き取り調査の立体化を図った。 現在なお分析を進めている段階ではあるが、場鎮のもつ動態性や地域性が明らかとなりつつあり、学会報告、学術論文などの形式で公表をする予定である。また次年度においてはその空間性の解明に努めてゆく。
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