本研究課題は、市場圏の空間性を農村空間の文脈に位置づけることを通して、地理学をはじめとした農村研究が準拠可能な空間的枠組みを創出することを目指している。 第2年次にあたる本年度は、昨年度同様に、市場町と市場圏の役割が明確で、かつ現在も重要な役割を果たしている中国四川農村を対象地域とした、フィールド調査を軸に研究が進められた。平成17年12月には四川省西北部の三台県において、市場町における景観観察と居住者へのインタビューを行った。平成18年3月には成都市北部の新都県において、同様の方法でフィールド調査を行った。2度の現地調査ではフィールド調査とあわせて、三台県図書館や成都図書館において資料収集を行い、郷鎮志をはじめとした地方志の詳細な読み込みを行った。 こうした研究の過程でいくつかの新しい知見を見出すことができた。とくに市場町が自然発生的に生まれたものではなく、農民や地主、商人、有力者が意識的に定期市を設定してきたことを、中心地体系や地域生態的な条件と対照しながら検討し、農村空間における市場圏が担う社会経済的な重要性について明らかにすることができた。また、市場町の歴史性について、19世紀から現在に至る市場町の変遷を空間的にたどる作業を行っており、その前近代と近代における連続と非連続について考察を進めている。
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