研究概要 |
本研究の目的は,製造業企業にサービス産業,さらに公的支援機関,研究機関(大学・研究所)などを加えた複合的分野の地域的集積(産業クラスター)における,中小企業を主体とする産学官連携の実態を,詳細な現地調査と地域間比較を通じて実証的に解明することである. この目的解明のために平成18年度は,第1の理論的研究では,前年度における産学官連携を促進した社会経済的要因に関する日米の比較と,その実証研究に対する意義との検討を踏まえて,日本における産学官連携推進の歴史を文科省ベースと経産省ベースとに分けて整理するとともに,競争的資金制度導入後の推移とその地域的な特徴を検討した.限られた経営資源の中小企業では,イノベーション競争に対処するために,外部資源との連携を求める企業が増加する一方で,連携構築の支援を利用する企業がまだまだ限定的であることが明らかとなった. 第2の課題である個別地域における実証研究では,山形県米沢市(末吉),長野県諏訪地域(松橋・加藤),大阪府東大阪市(大澤)の2市1地域(当初予定していた岩手県北上・花巻両市は,地元の協力が得られないために平成17年度から対象から外した)を,対象とする実証研究の補足調査を実施し,最終的なまとめを行った,その結果,次のことが判明した.対象の2市1地域における各事例では,すでに中堅企業レベルでいくつかの成功事例が生み出されている一方で,中小・零細クラスの企業群への広がりは弱い.また,当該の産業集積地域における産業支援さらに地元中小企業の各種のネットワークの歴史を反映して,独自の産学官連携の展開が見られる.特に後者の傾向は,中小・零細企業群おいて顕著である.ただし,この後者の階層における実践例では,企業のタイプや業態によって違いが見られる.すなわち,π1990年代から試作開発型受註や多品種少量型受註へと転換した企業における産学官連携の展開が進みつつある一方で.従来の下請型受註の企業ではほとんど展開が見られないことが明らかとなった.
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