初年度である平成16年度には、以下の2点を重点として研究を行った。 (1)客家語に関する研究史の整理と「客家語中原起源説」の成立・定着の過程の跡づけ: 客家語については、羅香林による先駆的な研究の後、言語学プロパーの研究者による音韻、語彙両面からの具体的で詳細な研究が数多くなされているが、その多くは純粋に記述的な分析に止まっており、それが客家の北方起源に結びつけられる根拠は必ずしも明確ではない。その意味で、実証的客家語研究と「客家語中原起源説」との間のギャップを、客家語研究の実行者と引用者の学問的動機付けに遡って検証した。 (2)広東省梅県地域の客家の地方文化に関する研究史の整理と「梅県=客家の中心観」の成立・定着の過程の跡づけ: 広東省東北部内陸の梅県地域は、客家の中心地として紹介されることも多く、実際に客家語の中で最も「標準的」とされるのもこの梅県の方言である。梅県客家の文化要素については、一部この客家語のように客家文化の代表として取り上げられるものもある一方、必ずしも他地域の居住者を含めた客家全体の共通要素としては認知されていない地方伝統も多い。梅県の地方文化についての文献整理を通じ、「梅県=客家の中心観」が成立した背景と、その過程で生じた表象的文化要素の取捨選択について分析した。 これらの研究成果については、学術雑誌論文の執筆を準備中である。
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