本年度は、以下の4点を重点として研究を行った。 1.福建省西部地域の客家の文化およびその歴史的形成過程: 福建省西部・汀州地域の客家に関して、昨年度に引き続き資料の収集に努め、その文化的特色と、歴史的変遷過程についての理解を深めるとともに、広東地域等との比較において近代的「客家」意識の顕在化過程がどのように異なるかや、近年のショオ族との関連性の議論においてどのような地域独自の展開が生じているかについて分析を進めた。 2.海南島の客家について: 海南島の客家に関して、臨高人など他の方言グループとの歴史的関係を、H.スチューベル等20世紀前半の民族誌に遡って考察した。そしてそれを通じて山地の黎族と平地の漢族社会の仲介者としての役割を果たす社会的ニッチに臨高人やタン州人などと置き換わる形で客家が定着していったことなどが確認された。また、昨年度来の同地域の客家に関する研究成果を『中国21』の論文としてまとめ、公表した。 3.台湾南部の客家について: 台湾南部・屏東地区の客家について、その民族誌的資料ならびに最近の客家意識の動向について、現地の研究者との研究交流を交えて研究を進めた。 4.客家研究史の全体像について: 客家言説の歴史的形成ならびに客家研究史のオーバービューに関して、飯島典子氏の著書の発刊など新たな展開が見られたので、これを詳細にフォローしつつ、客家研究史全体に関する研究代表者(瀬川)なりの結論を導くべく、総括に向けての準備に着手した。
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