研究課題
基盤研究(C)
客家研究は、それが当初から負っていた客家出身者の知識人自身による客家文化とその「民族系統」の正統性の実証という動機付けゆえに、それは極めて特異な展開をたどり、創始者・羅香林が敷いたパラダイムがその後も長く後続研究者の視野を直接間接に拘束し続けてきた。そのような「正統論」的な客家研究がもつ限界は、1にそれが各地の客家系住民のもつ諸文化要素についての客観的で公平な評価を妨げる可能性がある点、2に研究対象たる客家の特殊性のみを強調しがちになる点、そして3に客家と非漢族系の住民との連続性や相互作用を無視するか過少に評価する偏向がみられる点である。20世紀における客家像は、こうした客家研究によって強く規定されつつ、誇り高き純粋漢族、優秀な人材を輩出させる民族集団、古代黄河文明の保存者、「東洋のユダヤ人」等として学術界以外の一般人の間にも徐々に定着していった。それは日本、台湾、中国本土いずれの出版界においても共通した現象であった。しかし、1980年代から日本人研究者を中心としてそのパラダイムを超克しようとする動きが萌芽し始め、それは1990年代に入ると中国本土をも含めて本格的に展開されるようになった。そして、2000年代半ばに至って、それは一応の完成点と言うべきものをみるに至り、極めて公平で実証性の高い客家研究が数多く生み出されつつある。その中では、客家と非漢族系の少数民族住民との関係や境界も見直されつつあり、従来は極めて間接的にしか対話点をもたなかった少数民族研究と客家研究とが、相互に連携しながら華南ならびに中国全体の文化・社会を理解してゆく道が開かれた。この意味で、客家研究はその成立以来約70年を経て、漸くその「特殊」な研究領域を脱し、中国の人類学的・民族学的研究一般の中に正しく位置づけられ、組み込まれてゆくことが可能な地点に到達したと言える。
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