今回の調査は鵜飼のもつ重要な技術的問題点である鵜の越年方法について日本の事例を調査したものである。鵜飼は鵜を使って、日本ではほとんど鵜飼漁専門に行う特殊な漁法である。その捕獲魚であり、本来ならば鵜の餌となる鮎は海と川との回遊魚であり、秋に産卵のために河口部に下降した後、稚魚は海に滞留してはるまで川に上ってこない。その半年間の間、鵜に何を食べさせていくかという問題を克服しない限り、日本の鵜飼は成り立たない。この問題は長江などの大河川でコイ科の魚を鵜に捕獲させる中国の鵜飼では存在しない問題であり、極めて日本的な問題である。しかしながら、こうした問題は、これまであまり関心が持たれず、調査の対象にされたことがない。しかも戦後は、冷凍庫と冷蔵庫の出現・普及により、困難な鵜の越年方法は姿を消し、過去の姿を知る人々も高齢化している。本研究はこうした問題関心から、とりあえず現行の鵜飼実施地域、ならびにごく近年まで鵜飼がおこなわれた場所での聞き取り調査を行った。 それは相模川、狩野川、冨士川、木曽川、長良川、大堰川、宇治川、有田川、肱川、江の川、高津川、筑後川などにおよぶが、その調査内容を『鵜飼漁法の基礎的研究1』として報告書にまとめた。 また、調査者は岐阜市教育委員会が調査主体となった国庫補助事業、長良川の鵜飼習俗調査にも参画し、『長良川鵜飼習俗調査報告書』の執筆にあたった。本科学研究費補助金の調査成果のうち、長良川の岐阜市長良および関市小瀬の鵜飼に関しては前記報告書に反映された部分が多い。
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