「観賞用動植物」として金魚(ナンキン)を主な対象として調査研究を進めた。ナンキンは地域的に限定された範囲で改造が進められて独自の特徴を現在に伝える金魚の品種である。現地調査の内容は、複数のナンキンの飼育経験者を対象として、個人生活史(飼育・栽培歴)、1年・1日の仕事の内容、改造技術、民俗知識、観賞基準などに関する聞き取り、実際におこなわれている品評会の観察、「観賞用動植物」の改造技術に関する文献資料収集である。また、金魚のほかに、コイ、熱帯魚、アサガオなどの飼育・栽培や観賞についても、同様の調査を進めた。 金魚飼育にみられた自然の人間への随順化という様態はアサガオにもみられた。名古屋朝顔会の「盆養(盆栽風)切り込み作り」というアサガオの栽培では、蔓を伸ばさないで葉の中心に大輪の花を咲かせるという全体的な姿を理想体に近づけることが栽培の技術となっていた。理想の姿にできるだけはめ合わせようと栽培に苦心して、そのはめ合わせ得た度合いにより品評会で審査される。そこには、自然を人間に倚り傾かせ、理想体に嵌合しようと改造する技術がみられた。 熱帯魚では、日本には存在しない多種多様な自然をそのまま受け入れているという形で珍奇なる自然が観賞されているが、交雑によって新品種を作出したり形態を改変しようといった改造の技術はほとんど見られなかった。熱帯魚の飼育には、改造への志向を弱めながら珍奇なる自然への志向を強めていることが指摘できた。
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