観賞用動植物を飼育栽培すると、いうことは、自然の状態では存在しない自然物を作り出すことである。それは、交配により新品種を作り出すのではなく、固定された品種のなかで、理想の姿にできるだけ嵌め合わせようとして、成長過程において変形、改造された自然物を作り出すのである。観賞とは自然のありのままの姿をめでるのではなく、理想の姿に改造し得た出来具合をめでるのである。このような飼育栽培態度の様態を「随順化」と命名してあらわした。観賞用動植物の飼育栽培の特徴は、自然を人間に倚り傾かせ、自然を随順させることである。つまり自然の人間への随順化である。 本年度の調査では、これまでの金魚、盆栽などの補充調査を行ったが、とくに、菊(キク科)に注目した調査を行った。観賞用の菊栽培にみる改造技術は、一定の形に作り上げるシタテの技術であった。そこには、やはり、理想の姿に仕立て得た、いいかえれば随順し得た度合いが観賞され、また品評されることがわかった。 また、菊の栽培には菊人形という栽培・観賞法もある。菊人形とは、小菊を衣装として飾られた等身大の人形のことである。歌舞伎、物語や歴史のよく知られた場面を題材として作られる。菊人形は人形師と菊師によって作られる。人形師は頭、手、足など人間の形を模したものを製作する。菊師は胴体の骨組みである胴殻を作り、菊により衣装を作る。 菊人形の栽培・鑑賞法をまとめると、これまでに指摘した菊の栽培は、シタテという栽培技術により理想形に嵌め合わせて随順化を図るのに対して、菊人形は、栽培をとおした改造ではなく、人の力により型に嵌め合わせて随順化を作り上げる。そこに栽培技術としての改造はない。菊人形は、改造の栽培技術ではなく製作技術により、菊の随順化を体現した人形である。人々は菊が型(人形)に随順したところを楽しむのである。
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