「観賞用動植物」として、おもに金魚、朝顔、熱帯魚、菊を対象として調査研究を進め、そこに見られる改造技術の伝承的特徴の抽出を行って、報告した。金魚の場合、日本の金魚には約30種類の品種が存する。その中から、トサキンとナンキンという金魚の品種を取り上げた。これらは、地域的に限定された範囲で改造が進められて独自の特徴を現在に伝える品種である。金魚飼育にみる改造とは、自然を人間に倚り傾かせ、自然を随順させる技術のことであり、その様態を自然の人間への随順化とまとめられた。金魚の飼育・観賞のほかの動植物でも、理想体に嵌合しようと改造する技術がみられ、そこにも自然の随順化がみられた。 観賞用動植物を飼育栽培するということは、自然の状態では存在しない自然物を作り出すことである。それは、交配により新品種を作り出すのではなく、固定された品種のなかで、理想の姿にできるだけ嵌め合わせようとして、成長過程において変形、改造された自然物を作り出すのである。観賞とは自然のありのままの姿をめでるのではなく、理想の姿に改造し得た出来具合をめでるのである。このような飼育栽培態度の様態を「随順化」と命名してあらわした。観賞用動植物の飼育栽培の特徴は、自然を人間に倚り傾かせ、自然を随順させることである。つまり自然の人間への随順化である。 熱帯魚には、交雑によって新品種を作出したり形態を改変しようといった改造の技術はみられず、日本には存在しない多種多様な自然をそのまま受け入れているという形で珍奇なる自然が観賞されている。小菊を衣装として飾られた菊人形にも栽培をとおした改造はみられず、人の力により型に嵌め合わせて随順化を作り上げられていた。これらには、改造への志向を弱めながら、逸脱への志向を強めているという自然観賞の特徴が指摘できる。
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