研究課題
本研究では、オーストラリア、カナダ、および日本における(1)先住民知識、伝統的文化遺産をめぐる議論、(2)天然資源、環境開発と先住民との関係についての問題、という二本の柱を立てている。昨年度は、先住民知識にかかわるオーストラリア、カナダ、日本を中心とする各国での議論を整理し、現状を把握した。本年度は、これをさらに補充する目的で、オーストラリア、カナダ、日本の先住民的知識、伝統的文化遺産をめぐる社会状況、政治状況、研究についての資料の蓄積を行った。そのなかの一つの活動として、8月に博物館における先住民的知識の蓄積に関するオーストラリアでのシンポジウムに出席し、研究者との意見交換とともに、資料収集を行った。また、北海道の白老アイヌ博物館を訪問し、アイヌの伝統的知識に関する新しく動き始めたプロジェクトについて、聞き取り調査を行うとともに、博物館にある資料についての情報を得た。アイヌのプロジェクトについては、関係研究者との意見交換を行なった。本年度は、北海道で具体的に進行しはじめた、アイヌの人々の伝統的な生活空間聖性プロジェクトの実態と問題についての聞き取りを行った。植物、自然利用の知識についての調査、蓄積を生かして、自然と人との伝統的生活空間、具体的には、4つの地域での植生再生のプロジェクトが開始されている。そこでは、予定よりもずっと小規模であること、植生が実際にどれほど再生できるのか、プロジェクトにかかわるアイヌの人々の意識など、新しい問題が表れてきていることがわかった。本年度に具体的に着手されたばかりであり、今後どのような自然を再構成するのかについても、まだ議論の余地がある。このように、先住民的知識が地域の開発のなかで、注目され利用される状況が動き始めているのであり、このプロジェクトについては来年度、さらに調査を続ける予定である。また、オーストラリアでも本年度は、先住民研究所を中心に先住民的知識についての資料調査と研究懇談をおこなった。特に砂漠地域と熱帯地域において、先住民的知識の具体相をめぐる研究プロジェクトが先住民の人々を巻き込んで積極的に展開されていることがわかった。このような情報をふまえ、先住民知識をめぐって、グローバルにはどのような議論が展開されているのかとの視点を加え、最終年度である次年度の総括につなげてゆく予定である。
すべて 2007 2006
すべて 雑誌論文 (3件)
ジェンダー人類学を読む-地域別・テーマ別基本文献レヴー(宇田川, 中谷編)(世界思想社)
ページ: 195-212
キリスト教と文明化の人類学的研究(杉本良男編)(国立民族学博物館調査報告) 62
ページ: 131-149
ミクロ人類学(田中雅一, 松田素二編)(世界思想社)
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