本研究は、各地方に残る民俗芸能のうち、中世〜近世の都市芸能が伝播したとみられるものを選び、その関連と変容について考察しようとするものである。本年度は、2004年度の調査分をベースとして、より詳細なデータを蓄積することを主たる目的として、風流踊と人形浄瑠璃を中心に調査を実施した。 具体的には、長崎県対馬に伝承される盆踊について、その民俗的な基盤、流入の経路、歴史的推移、現在の伝承状況とその変化などを調査した。すでに1997年以来たびたび訪れている対馬だが、近年の変化を確認することと、従来の調査の遺漏を補完するために、改めて各地域の状況を記録した。 一方、新潟県佐渡市では、文弥人形および説経人形について、これまでに収集した資料に加えて、さらに人形の構造・操作方法の映像撮影、浄瑠璃の録音などを行い、詳細な分析を行っている。 対馬の盆踊は、一般に言われているような盆踊とはかなり異なっているものの、盆の風流踊であることには異論がない。しかも、江戸時代初期から幕末・明治まで、本土で行われた様々な風流踊を受け入れ、重層的に今日まで伝承してきたところに歴史的な価値が高い。2004年度には対馬周辺地域および九州全域の風流踊を概観したが、これらの調査と比較しつつ、対馬の独自性と各時期ごとの周辺地域のつながりを明らかにしてゆきたいと考えている。またこの5年余りの間にも、次々と廃絶地が増加している状況に鑑み、保存・振興対策についても検討を進めたい。 佐渡の文弥人形については、現地からオープンテープの古い録音の提供を受けたので、これらにもとづいて語り方の変遷、それにともなう操作方法の変化などを分析しつつ、他の地域に伝承されている文弥人形も視野に入れて、佐渡文弥人形の独自性を明らかにしたい。
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