平成16年度においては、ブラジルにおける日本人移民の老いとエスニシティに関する資料の収集を行う。主にフィールドワークを行った地域は、サンパウロ州(サンパウロ)、パラナ州(ロンドリーナ)、マトグロッソ州(ドイス・イルマン、アリアンサなど)、パラ州(ベレン)である。 1 IBGEの統計資料とサンパウロ人文科学研究所等が行った調査より、「若い」国ブラジル(高齢化率4.5%)の中で日系社会の高齢化が急速に進んでいる状況(1988年における高齢化率は9.7%)が判明した。特に農村部においてはこの傾向が著しく、高齢化率が25-40%という数字を記録する日系コミュニティも存在することが判明した。 2 ブラジルの日系団体であるサンパウロ日伯援護協会事業報告書、並びに、日系新聞(サンパウロ新聞、ニッケイ新聞など)の資料から、以下のような日系コロニアの高齢化の過程が明らかになった。 (1)1961年に日系初の老人ホームである救済会が設立されるが、日系社会全体に老人問題や高齢化に対する意識が芽生えるのは1970年代に入ってからで、「老人週間」というイベントが開催されたり、「老人クラブ(敬老会)」などが各地の日系コミュニティで発足した。(2)1980年代には、「孤独老人」といわれる家族のいない高齢者や要介護高齢者の問題など、老人に関する問題が特化した。この時期、農業従事者老齢年金の制度が整い、日系高齢者の中でブラジルの年金を受給するものが増加した。(3)1990年代に入ると老親の介護をになう若い世代が日本へのデカセギで不在となる現象が見られるようになり、老いの問題が深刻化している。要介護者が増加傾向にあるなか、特別老人養護施設などが日本からの援助で建設された。 3 オーラル・ライフ・ヒストリーからも、都市部と農村部の「老い」に対する考え方の違いが明らかとなる。施設などが整っていない地域においては、必然的に家族-特に「嫁」にあたる立場の女性-が主に介護の役割を一手に引き受ける状況がある一方で、都市部よりも日系人のネットワークが強いことから、敬老会などの会合やイベントが活発に行われている様子も観察された。 4 ドイツ系、ユダヤ系、スイス系、フランス系ブラジル人が設立した老人福祉施設の訪問を行った。どの施設においても、近年本国からの経済的援助が得られにくくなっている状況が明らかとなった。これは、日系コロニアも同様で、老人福祉制度が整っていない国で、日系というエスニック・グループが抱える日系老人にどのように対応していくかというのが大きな問題となっている。日系高齢者が集団で生活するシニア向きのアパートなどの要望も強く示されていた。
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