1.平成17年度においては、ブラジルで行った日本人移民の老いに関するフィールドワーク調査〔平成13年から平成15年(科学研究費:萌芽的研究)に渡って行った調査、及び平成16年(科学研究費:基盤研究(C)(2))に実施したフィールドワーク〕から収集した資料をもとに、The 18^<th> Congress of the International Association of Gerontology(開催地:リオ・デ・ジャネイロ、ブラジル)で"Aging and Ethnicity of Japanese Immigrants in Brazil"というタイトルで研究発表を行った。主な内容は以下のとおり。 (1)ブラジルにおける日本人社会(日系コロニア)が成立・成熟し、そして高齢化していく過程を検証するとともに、1980年代から始まった日本へのデカセギ現象が、ブラジルに留まる日系老人たちの老いに与える影響を中心に考察を行った。高齢化がすすむブラジルの日系社会は、介護人の不在という深刻な問題を抱え、相互扶助的な役割を果たす福祉ネットワークを有機的に作る必要に迫られている。 (2)また、北海道からの移民が多く居住するコロニア(例えば、フンシャール)では、多くの炭鉱労働経験者が日本からの年金を受給しており、ブラジル政府からの年金(多くはR$200.00)を補完する役割を果たしている特異な情況にあることを報告した。 2.ブラジルでの研究発表に引き続き、アメリカ・ロサンゼルスでの調査を実施する。平成5年から平成6年にかけてすでにフィールドワークを行ったKeiro Retirement Homeにおいて、10年後の変化を理解するために、再度フィールドワーク調査を実施した。 (1)「日系引退者ホーム」であった施設が、「敬老引退者ホーム」と施設名が変更されていた。これは、日系コミュニティからの寄付だけでは施設群の運営が困難となり、政府の援助を受けることにより、日系以外のエスニック・バックグラウンドを持った老人も受け入れなければならなくなったアメリカ多文化社会の変化を表している。 (2)10年前にインタビューした日系老人の多くは他界しており、老人の代交代が始まったことが観察された。特に、一世のために日本語が主であったコミュニティが、10年後には2・3世のために英語を主とするコミュニティに変化していたことは特筆すべき事柄であろう。同様にスタッフ・ボランティアの世代交代も始まっていた。 (3)日系アメリカ人の世代によるアメリカ化により「日系」というエスニシティは薄れていくものであると考えられているが、この日系老人のコミュニティにおいては、世代交代が進んでも、「日系」というエスニシティが生活の中心(食・余暇の過ごし方など)となっている様が観察された。
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