本研究の目的は、多様な人々が集まり移動する流動的な都市において、地域社会とは何か、そこでの家族や対面的な地縁関係を超えた、しかし、地域を基盤とした人と人とのつながり、住民の組織作り、地域コミュニティ形成の可能性を具体的な事例研究にもとづいて探ることである。ロンドンの西部、ハマースミスの住宅地に1970年代に設立されたNPOのコミュニティ・センターの活動に注目し、2004年〜07年の毎年8月に実地調査を行ってきた。2007年度は、これまでの調査のインタビュー記録や収集したドキュメントを整理し、英訳を含む3本の論考からなる報告書を作成した。調査地域は、かつてワーキングクラスが多数を占める住宅地であったが、1990年代以降、ジェントリフィケーションが急速に進み、今日はミドルクラスが多数を占めている。住民構成が大きく変わり、新旧住民のあいだの経済的階層意識が複雑に交錯する。報告書では、調査地域にNPOのコミュニティ・センターが設立された経緯、目的、地域におけるセンターの位置づけの変化を追うとともに、30年間にわたって多目的スペースを住民に提供し、地域の人と情報をつなぎ住民の社会的支援の活動を展開してきたセンターが、今日、どのような組織運営、財政基盤の危機的状況に直面しているかを明らかにした。そして、強力な住民組織を基盤とせずに、住民のエネルギーを組織化する運動でもなく、「場所」が人々をどのようにつなぎ、多様な個人を迎える場所になりうるのか、このコミュニティ・センターの実験的試みの厳しい現状と今後の展開の可能性をまとめた。
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