本年度は、移民政策、移民の法制度に加えて、難民政策、難民受け入れ制度の調査を行い、これらを包摂して「国際移住の法システム」およびそれをめぐる政策議論を整理する作業を行った。検討は、日独比較を中心にしながらも、ドイツの法制度と政策の分析に関して必然的に射程に入ってくるEUにおける国際移住に関わるシステムと政策をも対象に取り込んだ。ドイツのオスナブリュック大学「移民および間文化研究所」において、「日本における移民-その法制度と政策的議論」と題する報告を行い(2006年1月)、参加のドイツの研究者と意見交換を行った。とくに、ここでは、少子・高齢化社会における生産人口の減少に対して、日独の社会がどのような政策的対応を取ろうとしているかが比較的に論及された。日独双方とも、生産人口の減少を移民によって補充するという、いわゆるReplacement Migrationの政策には明確な距離をおいており、家族政策に比重をかける傾向がある点に共通性がみられる。しかし、ドイツの2004年新移住法は、これまでよりも外国人の受け入れと「統合」について、より積極的なシステムを採用しており、日本の移住に関わる法システムと政策をめぐる議論の停滞とは対照的である。EUの移住政策は、ナショナルなレベルでの議論に比べて、第一に、より明確に労働市場政策、それゆえ経済成長戦略との関連で論じられること、第二に、EU市民権の制度と関連して、EU構成国の国籍を有しない第三国国民に「市民権」を賦与してEU市民と同権化するなど、「市民社会」的視座からの処方箋が論じられることに特徴を見出すことができる。国際移住のテーマについての日独比較研究は、EUの動向を射程に入れることによって、比較の論点を多様化すると同時に何が重要な論点であるかを判定することに役立つことが明らかになった。
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