研究代表者の服部は、主として独語文献や独語新聞の調査を通じて福祉国家・社会国家の現代的展開の中でのケアの制度構築の特質およびその変容につきとりまとめる一方、ドイツの生命倫理(ボン)および社会福祉関係(シュツットガルト)の組織・研究所などを訪問し、ケアの制度構築の今日の政策動向につき資料収集と調査を行った。また、職業活動の自由の規制に関する内外の文献を分析し、適切な形での専門家責任あるいは専門家に対する信頼が成り立つための条件(養成訓練の在り方、専門職業団体の組織構成・体制、専門職の業務遂行の在り方、専門職の資格認定の仕方とその前提など)について考察を加えた。さらに、そうした研究の成果の一端を、さしあたりは福祉・介護職の職業倫理と法制度の関係に関する論文にとりまとめ、公表した。他方、研究分担者の亀本は、主としてジョン・ロールズの正義論の現代的展開に注目し、彼が福祉国家擁護論に立つとされる際の根拠とされてきた格差原理について詳細な再解釈を施すことを通じて、父権的温情主義ではない形の福祉国家のあり方を模索するとともに、現代的なケアの再構築のための新たな視点を探究した。そしてその成果を、主として2本の論文の形で公表した。両者は、人々の自己決定の支援をする制度的基盤としての法の意義を再評価する視点から、亀本は英米の、服部は独・墺の、それぞれ理論動向および現実の政策動向に着目し、しばしば連絡を取り合って研究成果についての相互検討を行った。また、これに関して内外から専門家を招き、研究会を行って、専門知識の供与を受けた。
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