研究代表者の服部は、前年度に引き続き、主に独語文献や独語新聞の調査を通じて福祉国家・社会国家の現代的展開の中でのケアの制度構築の在り方について取りまとめる作業を進め、その成果の一部を日本法哲学会学術大会での「法治国家原理の展開」と題する報告の中で発表した。服部は、今年度は公表にまで至る論文はなかったが、上記学会報告骨子の学会誌上での発表を次年度に予定している他に、地域福祉やわが国の社会福祉制度についての論稿や書評を発表すべく準備を進めている。他方、研究分担者の亀本は、法哲学・社会哲学国際学会連合の学術大会およびその前後も含め、各国法哲学者との学術的交流の中で、本研究のテーマに関する情報収集を行うとともに、前年度に引き続き、ジョン・ロールズの正義論における主として格差原理が持つ現代的意義について批判的に考察し、かかる作業を通じて、ロールズの正義論といわゆる福祉国家型リベラリズムの微妙な距離について検討を加えた。これは、ロールズ流のリベラリズムがケアの制度構築においてどのような意義をもつかを検証する研究としての一面も持ち、そのような観点からの考察も含めて、その成果を『思想』誌上に論文として発表した。両者は、人々の自己決定の支援をする制度的基盤としての法の意義を再評価する視点から、亀本は英米の、服部は独・墺の、それぞれ理論動向および現実の政策動向に着目し、しばしば連絡を取り合って研究成果についての相互検討を行った。最後に、論文として公表したものを中心に、2年間にわたる研究成果を成果報告書(冊子体)としてとりまとめた。
|