前年度は、主としてロシア連邦の検察制度の特質を研究したが、その際新しい検察庁法と弁護士法の翻訳の発表が遅れ、今年度にずれ込んだ。 今年度は裁判所制度の実態分析を主たる研究対象とした。体制転換に伴う裁判所制度の転換とその理論については前稿で研究済みなので、今年度は、新制度が、実際に、具体的にどのように展開しているかを研究した。2004年に第6回全ロシア裁判大会が開催されたが、その際多くの裁判関係の統計資料が公表され、裁判の現状が数量的な側面から明らかになった。 現代ロシアの裁判の特質を簡潔に表現すれば、「裁判の活性化と混迷」と特徴づけることができる。現代のロシアでは訴訟が激増し、また裁判は大きな社会的関心事となっており、マスコミでも多くの報道が見られる。それは司法権の独立がある程度確立されたことによって、裁判が社会を規定する大きな要因となってきたことにもよる。この点は社会主義時代と大きく異なる点である。かつては裁判所は検察庁に頭が上がらなかったが、最近は最高裁が、検察庁の誤認起訴(ホロドフ事件)を強く批判する特別決定を採択した例もある。他方で、脱税等を理由とした最大の政商に対する政治的弾圧の疑いのあるホドルコフスキー事件裁判のように、裁判所が当局に迎合しているように見える例もある。この事件も含め、最近は弁護士も依頼人の弁護のために活発に裁判闘争を展開する例が増えてきた。かつては裁判所、検察機関、弁護士が一致協力して裁判を運営していたが、現在ではそれぞれ自立して自らの任務を遂行するようになってきているのである。ロシア裁判の以上のような現状を、「現代ロシアにおける裁判の活性化と混迷」という論文にまとめたが、公表は次年度となる。また憲法裁判や、選挙裁判に関する関連論文を著した。
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