(1)司法制度の展開。社会主義崩壊後のエリツィン時代(1991-1999年)には、裁判官の身分保障が進み(終身制)、司法権の独立が前進した。しかし他方で裁判官の独断専行と腐敗(収賄)が拡がった。プーチン政権下では、一般に自由と民主主義の後退が見られるが、裁判制度においても、その腐敗等を理由に引き締めが図られた。例えば、裁判官の定年制(70歳)が導入され、規律責任(解任)・行政責任も強化された。 (2)裁判の実態分析。プーチン政権の誕生以後、裁判官に対する執行機関や裁判所上層部による圧力の存在が報告される事例が増えてきた(モスクワ市裁判所のエゴロワ所長によるグジェーシキナ判事への圧力)。違憲判決を頻繁に出してきた憲法裁判所も、社会全体の保守化傾向を敏感に感じ取って、その活動は精彩を欠くようになった。大統領による知事「任命」制も、合憲とされた(2005年)。プーチンの政敵であったホドルコフスキーに対する裁判など、政治裁判が行われている。 (3)訴訟構造の転換。訴訟構造が職権主義から当事者主義へと転換し、対審的構造は一応機能している。したがって、司法権の独立の危うさにもかかわらず、裁判が検察(政治権力)の思惑通りには進まなくなっている現実もある。弁護人たちも法廷闘争を展開するし、陪審制の導入も裁判のあり方を大きく変えた。陪審員なしの裁判では無罪率は0.5%であるが、陪審裁判では25%である。 (4)全体として、社会主義崩壊後、司法権の独立の基礎構造はできあがったが、現実の裁判所は弱体であった。強権体質のプーチン政権下で、司法の力はいっそう弱体化しているのが現状である。
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