本研究は、近世以降において、《法原理ないし法原則に基づいて法学を体系化し、また法実務を処理していく--法の欠缺を補充し解釈を方向付け体系性をもつ立法作業を進める--手法》が、具体的にどう形成され変容していったか、そうした手法の形成・変容は、どういう学問的ないし思想的背景と関わるか、それが今日の法学においてどのように再評価されだし、法学と法実務でどのような新たな役割を果たしているか、を明らかにすることを課題にしている。 本年度は、3力年の計画の初年度にあたるため、重要な資料を集積し、それらの分析を通じて、まず大きな見取り図を描くことから作業を始めた。具体的には、古代ローマ法以来の法学と法実務の特徴を、《ratio legisをめぐって思考がどう展開していったか》の観点から追い、その作業をバックにして、とりわけ近世以来のratio legisをめぐる法学上の議論を、人文主義法学の手法や、近世自然法の影響を受けた法学、19世紀の私法学と公法学などについて考察した。焦点は、トーピク的思考とベーコン的思考とデカルト的思考との織りなす相互関係の中で、また新しい実務的な必要が高まる中で、法思考がどう自己革新していたか、その中で法原理に基づく思考がどう変容していったかにあった。 これらの作業を通して得た成果は、目下執筆中の『法思想史講義』の中に活用し、『法思想史講義』のページ数で言えば、約100ページにわたってこの問題に関わる記述を置き、中身を大幅に改善させることができた。また、2004年8月の民主主義科学者協会法律部会の合宿研究会において、「実定法の基底にある法原理に基づく法解釈--その歴史と現況」というテーマで発表した。
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