本年度は最終年に当たるので、残された課題について研究し、これまでの研究を補完しつつ全体をまとめ、成果について執筆作業を進めた。その結果、法学と法実務における法運用の実態を、古典古代から現代にいたるまで一つの重要な柱として他の重要な文化事象や思想の動きと連関付ながら描くことが可能となり、その成果を『法思想史講義』の中でまとめることができた。この本は、2007年9月に出版できることになった。この本は、教科書の姿をとるが、その中身においては、本研究の成果を全面展開している。 本年度の成果としては、次のものがある。(1)近世以来の法学を、自然法論的理論法学とトーピク的実務法学の並存においておいて捉え、一方でそれを、啓蒙主義と人文主義の対抗軸と対比しながら、考察した。また、前者の自然法論における、原理からの全体構築、とくに個人の意思から展開する手法が、その後、カント・ヘーゲルを経てサヴィニー・プフタ等の19世紀ドイツ法教義学に展開していく様子を具体的に押さえた。加えて、そうした法学の学問化の背景にある、自然科学の発達と新人文主義にもとづく大学改編の運動とを考察した。(2)この法教義学的法学がイギリスやアメリカに影響を与え、とくにラングデルの法学をどのように生んだかを考えるとともに、それがいったんリーガル=リアリストによって否定された後の1950年代以降のアメリカに広まったリーガル・プロセス法学を、ドイツにおいて自由法論・法社会学が登場したあと、利益法学-評価法学へと展開していく法学の動きとの比較において、考察した。(3)「実定法的原理」に関わる、「事物の本性」論・「法準則」論・「近代法原理」論などの議論を連関づけ、その前史としての17・18世紀におけるratio legisの議論、それが19世紀において新たなかたちで復活し、法教義学の基軸となっていった様子などを描いた。
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