日本の紛争解決のあり方を特徴付けるのは、弁護士の量的少なさである。本研究の目的は、この状況のなかで、地域社会における法的サービスの需要がどのように充足されていたのか、を府県レベルで明らかにすることを通じて、法律専門職の役割と機能について、比較法史的視野のなかでその個性を明らかにすることである。 その結果以下の点を明らかにした。 第一に、滋賀県をフィールドとして、地域社会における法的サービスの需要の充足が、弁護士だけではなく、さまざまな非弁護士からなる弁護士・非弁護士の人的ネットワークによって満たされていることを、実証的に明らかにすることができた。そうした弁護士・非弁護士の人的ネットワークによる地域の法的サービスの需要充足のあり方は、弁護士が量的に少ない近代日本における地域の紛争解決のあり方の特徴を形作っていると考えられることを指摘した。 第二に、同時期のフランスでは、地域における紛争解決のあり方が、治安裁判所の素人裁判官である治安判事を中心にしていたこととの対比で、非弁護士が弁護士とネットワークを持って紛争解決に当たるあり方は、日本の特徴であることを明らかにした。 第三に、こうした弁護士・非弁護士の人的ネットワークによる地域の法的サービスの需要充足のあり方は、1920年代以降、非弁護士層を排除する方向で再検討されることになり、戦後以降の地域における法的需要のあり方を特徴づけることになるであろうという展望を示した。
|